ドラマ『十月十日の進化論』は、妊娠、出産を経験する女性の心の成長を描いたお話。第7回WOWWOWシナリオ大賞で受賞した作品をドラマ化したものです。
主演は尾野真千子。
主人公は、昆虫分類学で博士号を取った、高学歴で偏屈な女性。そんな彼女が一人で子供を産んで育てようと決意する。
癖のある主人公ではあるのですが、女としては共感できるところもあった作品でした。
U-NEXT、Amazon Primeなどで見られます。ドラマを見て感じたことをネタバレありでご紹介します。
十月十日の進化論
作品情報
製作年度 |
2015年 |
上映時間 |
97分 |
監督 |
市井昌秀 |
キャスト |
尾野真千子 田中圭 森谷文子 小池里奈 佐々木すみ江 斉木しげる 嶋田久作 でんでん りりィ |
生きるのが下手な主人公(気持ちはわかるが……)
鈴木鈴(尾野真千子)は、昆虫分類学を先行して留学して博士号も取得している優秀な女性だが、偏屈で柔軟性がなさすぎることもあって、勤め先の大学を解雇されてしまう。
落ち込んだ鈴が、父親(でんでん)が経営する店で飲んだくれていると、7年前に別れた元カレの安藤武(田中圭)とばったり再会。二人は酔った勢いで関係を持つ。
それから鈴は安藤を避け、安藤も自分が避けられているのでギクシャク。安藤は7年前に、鈴が黙って自分から去った理由がわからず悩み続けていた。
やがて鈴の妊娠が発覚。安藤に妊娠を打ち明けようとする鈴でしたが、安藤からそっけなくされてしまい、一人で子供を産んで育てようと決める。
酔った勢いとはいえ、鈴は安藤が嫌いなはずがない。だから鈴の気持ちがこの時点ではわかりません。
無職で金もない。先々不安しかない状態。しかも鈴はかなり性格に問題のある女性で、順応性がないため、先々が一層危ぶまれます。
頭のいい女性だから思考は極めて論理的なのですが、とにかく頑な性格。安藤に真実を打ち明けることもできずに時間は過ぎていきます。
女として妊娠したときの不安や、一人で子供を産んで育てる決意がどれだけ大変なことか。悪阻は始まるしこれまでのように身軽ではない。背負うものが大きいことはわかるのですが、その癖、鈴の行動はあまりに客観性に欠ける。優秀だから自己完結できると考えての行動なのかもしれませんが、人の気持ちが理解できず、さすがに微妙な場面が多々ありました。
一人で産んで育てるつもりが周囲を巻き込み(ネタバレあり)
研究職で再就職先を探していた35歳の鈴でしたが、妊娠がわかり、仕事を選り好みいている場合ではない。仕方なく子供を対象にした昆虫施設のアルバイトの職を得る。
でもそこでも周囲と上手にやれず衝突が多い。すごく面倒臭い人です。施設には妊娠も隠しているのでお腹が大きくなって上司にバレるという最悪な流れです。
和歌山のお母さん(りりィ)は、鈴の父親(でんでん)と結婚はしておらず、シングルマザーで鈴を育てている。なので鈴の妊娠を知って最初は激怒するのですが、結果的には体調を壊す鈴を引き取り、和歌山で子供を産んで一緒に育てようと言います。
鈴は思っていることを口にする性格ですが、友達、冴花(佐藤仁美)は、不器用な鈴を本気で心配している。そしてすごく気分の悪いことを言われもするのに、安藤と会い、本当は安藤のことが好きだけど、本気で向き合うことを恐れているのだろうと、鈴の気持ちを代弁します。それと7年前の秘密にも。
なんていい友達なんだろう。
父親も安藤に会って娘の妊娠を伝えます。彼は父親として娘と一緒に暮らしてこなかったかもしれないけれど、すごくいいお父さんです。
鈴は、自分は誰にも迷惑なんてかけてない、ちゃんと一人で生きている、と思っている。だけど蓋を開けてみれば、まったくそうじゃなかったという話。主人公が、妊娠出産という人生の一大事を経験することで、いかに自分が周囲の人と携わりながら生きてきたかを実感させられるというのが、このドラマの大切な流れですね。
この話を見て考えたのは、平時にたくさんの人に囲まれている人(またはいつも誰かがいてくれると当たり前に考えている人)が、実際ピンチが訪れたとき、どれだけの人が側にいてくれるのだろうということ。
ラストはハッピーエンドでよかったのですが、主人公は全然一人ではないので、この話を見て自分の孤独を感じさせられる人もいる気がしました。
好きなところ・生き物を見つめる視線・脇役が秀逸
主人公が昆虫分類学者なので、自分の肉体や心境の変化を、生き物の進化に置き換えていくのは面白かったですね。
子供が生まれると強くなると言われるけれど、自分は弱くなった気がする。だから生き物は、仲間や家族を持つことで心強さにつなげ進化してきた。学者目線の説得力ある進化論を語ってくれるところはドラマの見どころといえるそうです。
またこのドラマは、脇役が輝いていました。
身勝手なようで本当は臆病な鈴を影で支える母親役のりりィ。亡くなられてしまい悲しいです。
また鈴が、地元の和歌山で出産する助産婦役で佐々木すみ江も登場します。こういう厳しさの中に優しさがあるというか、沁みることを言ってくれる女性がいなくなっていくのは寂しい。
「子供に支えてもらう」と話す鈴に、佐々木すみ江が演じる助産婦は「子供は支えにするものではなく、希望の光だから一歩前を歩かせるもの」とやさしく諭す場面にはじんときました。
別れた(?)恋人、安藤役の田中圭は『おっさんずラブ』と同じだなとしみじみ。(あらゆる意味で)尾野真千子に翻弄されているようでいて、ラストは決めるところは、春田&牧を彷彿とさせられたり(?)
ファンの人にはおすすめですよ。
▼尾野真千子、田中圭、出演作品はこちらにもあります。
それではまた。
のじれいか でした。