「トリウッドスタジオプロジェクト」は短編映画を上映する「下北沢トリウッド」と専門学校との共同企画で、学生が商業映画を製作から公開まで担当するというもの。
本企画によって製作された映画『色あせてカラフル』は、本企画の第10弾めの映画です。
トラウマを抱える主人公が、過去を置いて現在に目を向けるまでの姿が、重すぎないタッチで描かれています。すごくおすすめ。Amazon Primeで配信してます。
ストーリー、好きなところ、ネタバレあり(ちょっとだけ)で書いていきます。
色あせてカラフル
作品情報
製作年度 |
2015年 |
上映時間 |
60分 |
監督 |
横山久美子 |
キャスト |
奥本カナミ(佐藤玲)
悠木新(水間ロン) 吉岡晴一郎(黒羽真璃央) 透吾(落合モトキ) 店長(田中要次) ネギおばさん(研ナオコ) きみえ(辻川幸代) |
公式
予告
人と目を合わせられない、写真嫌いの主人公
23歳の派遣社員、奥本カナミ(佐藤玲)は、鏡を見るのも写真に写るのも苦手で、人と目を合わせられない。そして会社では、コミュニケーション不足を指摘されています。
カナミには、かつて顔にアザがありました。現在は治療で消えていますが、過去を忘れきれず、トラウマとして抱え持っていました。
彼氏(落合モトキ)にアザの過去を知られたカナミは傷つき、会社を欠勤して、クビになってしまいます。
そして、なぜなのか、近所の美容院でアルバイトを始めるのでした。美容院なので鏡だらけ、しかも接客という、もっとも苦手な仕事のはずなのに。
店長(田中要次)は緩く見守っていますが、やはり「なんか硬いな」とは感じている。
やがて、ご近所のネギおばさん(研ナオコ)、上京した大学生の吉岡(黒羽麻璃央)と出会い、カナミは彼らの今の姿と過去の姿を考えます。
ある日、美容室に客として中学の同級生、悠木(水間ロン)が訪れます。久しぶりに再会する二人。吉岡はスポーツ万能で、将来はサッカー選手になることを夢見る少年だったのに、脚の神経を切ってしまい、当時とはまったく違う人生を歩んでいました。
過去の経験や事象がトラウマが、その人を生きにくくさせるこたはよくあること。このドラマでカナミのトラウマは顔のアザ。でも人によっては、もっとわかりにくいこと(内面的理由)だったり、もっとわかりやすいこと(美醜)だったりするのでしょう。
部屋で美容整形で変身するバラエティ番組を見ていた彼氏が、「昔の彼女の顔が別人だったら、ちょっとな」と軽く言った一言に動揺します。他人は自分を手放せるけれど、自分は自分を抱えたまま手放せないので苦しいですよね。
たとえ昔のアルバムを焼いたって、自分の内側に残っていたら、それは同じことです。
本題からはずれますが、彼氏も会社の上司もやたらとデリカシーに欠けている。こんな人は現実にはいないと思いました。
結局は自分だが、誰かがきっかけになることも
カナミは子供の頃のことを思い出して、他人の目線を恐れて、人と目を合わせるのを怖がっていました。
アザのことが原因で気まずくなり、別れる流れになった彼氏から「やりなおしたい」と言われても、これは彼の問題ではない「自分の問題だから」と別れを選びます。
トラウマが強いと他人を巻き込んでしまう人が多いなか、カナミは自分と向かい合うことから逃げないのは立派でした。
美容院で働こうと決めたのも、苦手を克服するための敢えての選択。田中要次演じる美容室の店長から「もうちょっとやわらかくなれないのぉ?」と聞かれて、その回答で真意がわかります。「お客さんは昔のあなたを知らないんだから、そんなに考えなくていいんじゃないの?」という店長の台詞は秀逸でした。
カナミは日々苦しんでいますが、自分の悩みを相手に押し付けたいわけではない。それでも中学時代のサッカー部のエース吉岡と再会したとき、お互いの心をぶつけ合います。
カナミは顔のアザが消えても、心の中のアザは消えていない。現在の自分は何も成長できていないと悩んでいる。過去を切り離すことができないのです。
吉岡はスポーツ万能でしたが、今は脚を負傷してしまった。昔よくて今はよくない人。カナミは昔はアザがあったけれど、今は治療を受けてアザは消えている。その対比はすごく考えさせられました。良かろうが悪かろうが今を生きるしかないわけす。
カナミは過去が気になって仕方ないので、色々な人にそれとなく過去について尋ねます。「本当の過去って、その人しか知らないこと。だからどうだっていいじゃない?」とネギおばさんは答えます。ネギおばさんはホームレスですが、とても明るい。ネギおばさんが教えてくれたのは、自分しか知らない過去より、今や未来の方が大切だということでした。
さいごに
完璧に過去を振り切れたわけではないけれど、カナミは冒頭と比べたら明るく気持ちが楽になれたように感じられました。
人間だから色々あるのは当然。だけど結局、人生は今しかない。だから良くても悪くても前を向くより仕方ないというのが、この話のテーマですね。
『色あせてカラフル』タイトルがいい。
過去に囚われていると感じたり、かつてのトラウマから開放されない人にすすめしたい映画でした。
▼トラウマ映画です。
それではまた。
のじれいか でした。