『ゾンビの中心で、愛をさけぶ』(ZOO)、なかなかふざけた邦題が目を引きます。
デンマーク、スェーデンで製作されたブラック・ホラー映画で、ゾンビウイルスが蔓延して部屋に閉じこもることになった離婚寸前の夫婦のお話。
2018年の映画ですが、ウイルスで外出ができなくなるとは、今となっては笑えないストーリーでもあったり。
コメデイだから基本的にはユーモアタッチなのですが、人間心理を捉えていて、興味深い場面もある。
好きなところ、残念に感じたところをネタバレありでご紹介します。
ゾンビの中心で、愛をさけぶ(2018)
※本記事の情報は2021年5月時点のものです。 最新の配信状況はサイトにてご確認ください。
作品情報
デンマーク、スェーデン 95分
監督:アントニオ・トゥブレン
キャスト:
ゾーイ・タッパー、エドワード・スペリーアス、アントニア・キャンベル=ヒューズ、ヤン・ベイヴート
予告
ワンシュチュエーションで安定感あり・好きなところ
教師のジョン(エドワード・スペリーアス)は、刑事の妻・カレン(ゾーイ・タッパー)と高層アパートに暮らしている。二人の仲は円満とはいえず、カレンは離婚を切り出そうとしている。
それなのに二人は外に出られない。
街にゾンビウイルスが蔓延して危険な状態だから。
救助隊のヘリが上空を飛び「生存している部屋は”×印”にテープを貼ってください」と声をかけているが、二人が窓から手を振ってもヘリは気付かない。
何処かに逃げたり、ゾンビになってしまったりで、アパートにはほとんど人がいない。ラジオではワクチンができるのに時間がかからないと告げていますが、本当なのかは確かめようがない。
買い物にも出られないし、店などやっていなさそうなので、夫婦は無人の部屋から食料や必要なものをかき集めて生き延びようとします。
…ゾンビが登場するパニック的な要素もあるのかと想像しましたが、ゾンビはあまり出てこず、サバイバル時の夫婦の心理がユーモアを交えつつ切なく描かれていきます。
カレンは、空き家になった部屋から、おしゃれな服や大型テレビを取ってきたり、ワインをどんどん開けていくところなどは、大胆でなかなか面白かったですね。
場面はほぼほぼ二人の部屋で、ワンシュチュエーション。場面がやたらと切り替わらないので、寸劇を見るような感覚で楽しめるのがいい。
心理的サバイバル・好きなところ
カレンは離婚を切り出すつもりでしたが、今はそれどころではない。
刑事のカレンは部屋に隠していた押収品のドラッグを二人で使ったり、ワインを飲んだりしていましたが、やがて来るべきときに備えようとサバイバルモードにシフトチェンジしていきます。
やがてジョンたちが室内にいると察した同じアパートの住民夫婦が、ジョンたちの部屋を訪ねてくる。でも彼らは日頃から文句が多いクレーマー夫婦でジョンとカレンは鬱陶しく感じている相手。
クレーマー夫婦も、自分の張り紙を剥がされたことを根に持ち、カレンが子供を死産してから子供が産めなくなったことを吹聴していて決して友好的なわけではない。
自分の部屋をゾンビに占領され行き場を失ったクレーマー夫婦は、絶対にジョンたちの部屋を出たくないわけですが、反対にジョンとカレンは食料のこともあるし、それでなくても好きではないので「早く出ていけ」と思っている。
またクレーマー夫婦は「手伝えることがあったら何でも言ってね」と言いつつ自分からは何もしようとしない。なかなか図々しい連中なのですが、そんなクレーマー夫婦にカレンが「あなたたちの得意なことは何?」と聞くところはよかったですね。得意なことは日頃から探しておいた方が良さげです。
部屋の片付けをさせていることで、クレーマー夫婦の不満は高まり、部屋を乗っ取ろうと考えるようになっていきます。
2対2の心理的なバトルが、なかなか面白い!
邦題の意味(ネタバレあり)
二人で協力し合って困難を乗り超えていくうち、二人は見失っていた夫婦の絆を取り戻していきます。
カレンは生き残ることができたら養子を迎えて、その子供に愛情を注ぎたいと話します。愛は注ぐ対象がないと変質してしまう。破壊的になってしまうと話します。
…いやいや、情熱的な人です。
ジョンもカレンをずっと愛していたのですが、仕事に逃げてしまっていた。カレンも二人の愛の一部であった子供を亡くしたとき、人生に失望して愛が終わった気がしていたけれど実はそんなことはなかったことに気づきます。
テーマは愛の再生。そう思うとタイトルの意味がわかるような気もしてきたり。
二人は無事なのか?(ネタバレあり)
クレイマー夫婦をやっつけ、救助隊を装い押し入った強盗たちを退治しながらジョンとカレンは愛を深めましたが、いよいよ食料が底をつき、二人は外に出ることを決める。
何の収穫もなく逃げ帰った二人でしたが、カレンが足をゾンビに噛まれて感染。ジョンはワクチンができれば死ななければ助かると励ましますが、やがて血がほしい禁断症状に襲われる。
ジョンは自分を傷つけて血を与えますが、カレンは自分がゾンビ化していることに気づき愛する夫の血を求めてしまう葛藤に苦しみます。
二人はギリギリのところで愛し合うのですが、救助はやはり現れないまま。
カレンはジョンに置き手紙をして自分を殺してほしいと書いた紙を胸に下げてゾンビ化します。
ジョンはカレンを手にかけることができないが、やがて拳銃を手に取りますが……。
役者もいい!
ジョン役を演じたエドワード・スペリーアスは、ドラマ『ダウントンアビー』のジミー・ケント役の人としてお馴染み。若い頃より今の方が、かっこよくなった気がする。
カレン役のゾーイ・タッパーも引き込まれる演技力がありますね、スルメのような女優です。
クレイマー夫婦の妻役を演じたアントニア・キャンベル=ヒューズもイジイジした存在感があって見応えありでした。
愛には敏感でいたい・残念に感じたところ(ネタバレあり)
ふたりは脱日常で愛を確認できたわけですが、何やらジャンルは全く異なるものの、環境を変えることで愛に気づくという点では『シャルタリング・スカイ』のような味わいもあるような。
こちらも愛に気づきながら残念な結果になったのは同じかも。日常に埋もれた愛を実感するのは難しいことなのかもしれませんが、失ったものは戻らない。
そこは重々承知のうえで、ワンチャンあってもよかったんじゃないかなーと思ったり。ダメか……。
それではまた。
のじれいか でした。