映画『ロスト・イン・トランスレーション』(Lost in Translation)は2003年のアメリカ映画。
困惑顔のビル・マーレイとスカーレット・ヨハンソンが東京の街を練り歩くお話です。
監督はソフィア・コッポラ。起承転結がはっきりしていてオチを楽しむというより、感じる映画でしょうか。
見慣れた東京の街が、外国人のフィルターを通すことで違った風景に見える新鮮さが楽しめます。
何気ない風景が違ったものに見えたり、公開から時間も経っているので懐かしさを感じたりも。舞台になったホテル「パークハイアット新宿」もいいですねー。
映画のストーリーと好きなところをネタバレを混ぜつつご紹介します。
ロスト・イン・トランスレーション
※本記事の情報は2021年5月時点のものです。 最新の配信状況はサイトにてご確認ください。
作品情報
アメリカ・日本 102分
監督:ソフィア・コッポラ
キャスト:ビル・マーレイ、スカーレット・ヨハンソン、ジョバンニ・リビシ、アンナ・フォリス、藤井隆、ダイアモンド☆ユカイ
ストーリー
ハリウッド俳優、ボブ・ハリス(ビル・マーレイ)は、結婚して子供もいるが倦怠している。ボブはウイスキーのCM撮影のため、単身で東京を訪れた。
大学を出たばかりのシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)は、夫でカメラマンのジョン(ジョバンニ・リビシ)の仕事でやはり東京を訪れるが、ジョンは多忙。シャーロットは一人の時間を持て余していた。
ボブはCMディレクター(ダイアモンド☆ユカイ)との通訳を交えた空虚な遣り取りを経ながら撮影をするが、あまりの退屈さに早く帰りたくてたまらない。
シャーロットはホテルの高層の部屋から景色を眺め、一人で街を歩くが虚しくてたまらない。
そんなボブとシャーロットは宿泊先のパークハイアット新宿のエレベーターで出会い、ホテルのバーで再会。時間はあるが同行者のいない二人は、年齢も立場もまったく違うが次第に同じ時間を過ごし、心を寄せ合うようになっていく。
やがてボブは帰国を伸ばし、帰りたくないと思うようになるのだが。
そんな二人にも別れの時は訪れる。
小さな孤独と非日常感
ボブもシャーロットも表面的には孤独ではありません。
ボブはかつては映画にも出演したハリウッド俳優なので、日本でCM出演の仕事があるわけです。それに結婚して子供もいる。恵まれている人です。
シャーロットも新婚。夫はカメラマンで成功しているのでパークハイアットに宿泊しているのでしょう。だけど彼は仕事ばかり、同行させる意味がなかったのではと思うくらい妻を放置しています。
知らない街で、知った人があまりいない日々は、知らず知らずのうちにその人の内面にある孤独を浮かび上がらせてしまうものなのかもしれない。
東京だから寂しいというよりは、知らない場所だから自分が見えてしまう。異国の都会にはそんな不思議な力があるように感じます。
ロケ先の風景が秀逸
この映画を観ると行きたくなるのが、パークハイアット新宿。
部屋もすべてパークハイアットで撮影されているのが今更ながら憎い。今は外資系ホテルが今よりずっと増えていますが、西新宿(というか初台)という微妙な立地にあるパークハイアットは個人的にとても馴染みの深い場所です。
ホテル内のバー、二人が親しくなってシャーロットの友人たちとのカラオケボックスのひととき、シャーロットの足が腫れたからとボブが連れて行く病院など、何やら見覚えのある場所が多いのがポイントが高い。
音楽もいい。ボブがカラオケでロキシーミュージック「More Than This」を歌うのですがそれがまた下手…。カラオケボックスの廊下でピンクのウイッグを被ったシャーロットと迷彩柄のTシャツを着たボブがぼんやりしていると、誰かが歌うはっぴいえんどの「風をあつめて」がぼんやり流れてくるのもオツです。
若き日のスカヨハが素朴かわいい
今ではCGバリバリのハードな作品の主演もこなすハリウッド映画界の大女優、スカーレット・ヨハンソンですが、撮影当時の年齢はおそらく19歳かそこら。
日本人と比べても小柄でブロンドでなければ人混みに紛れ込んでしまいそう。いや肌はピンクですごくかわいいのですが、そこに等身大のアメリカ人の女性がいる感じがするのがとてもよい。
ピッチピチの普通の女の子らしさが、くたびれたハリウッド俳優との組み合わせを凸凹で面白くさせています。
二人の会話がいい
暇つぶしのようにして一緒い過ごすボブとシャーロットですが、あるときシャーロットは自分が行き詰まっていると打ち明けます。
年を取ったら楽になるのだろうかとボブに訪ねると、年齢と共に楽にはならないと言いながら、自分がわかれば余計なことに振り回されなくなるとアドバイスする。
シャーロットは何をやればいいかわからない、文章もだめで写真も上手く撮れないと。ただボブは書き続けろと話す。多くは語りませんが俳優として成功したボブのアドバイスなのでしょう。
でもシャーロットから「結婚は?」と聞かれると、
「それはわからない。子供ができれば結婚は複雑になる」とボブは答える。すごく素直だなと思いました。
否定的な意見なのではなく、子供の存在は人生にとって素晴らしいものだとわかっていても、それを受け取るには犠牲が必要。諦めたり我慢することが出てくる、そんなことが言いたかったのかもしれません。
好きな場面
色々あるのですが特に印象的なのは次の2つの場面です。
① 渋谷スクランブル交差点でボブのCMの宣伝カーが通るのを、シャーロットがボブと笑いながら眺めているところ
② 少し気まずい二人がしゃぶしゃぶ屋に入るのですが、肉の写真を眺めるシャーロットが「違いがわからないわ」と困惑するところ
何度見ても笑える場面です。
ラストがいい!(ネタバレあり)
帰国が決まったボブは、シャーロットを残して日本を去ることになります。
二人はホテルのバーで最後の時間を過ごし、翌朝、ボブは日本のエージェントたちから見送られながら黒塗りのセンチュリーに乗って空港へ向かいます。
ホテルのロビーでシャーロットと顔を合わせるのですが、シャーロットはそっけなくホテルを出てしまい、ボブは切ない。
でもそれはシャーロットも別れがつらいから。
新宿の3丁目で車の中で雑踏を歩くシャーロットを見つけたボブは、思わず車を停めて駆け寄ります。
そして抱き合ってキスをする。シャーロットの表情が切ない。
最初この映画を観たときは、異国の島国に迷い込んだ外国人の男女が、一緒に遊んでいるうちになんとなく別れがたくなった。
そんなふうに捉えていたのですが、何度か観直すうち、旅先でこれだけ心が通わせられる相手とはやはり特別な縁、これは本物の恋だったのではと思えたりしました。
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それではまた。
のじれいか でした。