映画『横道世之介』は吉田修一の小説の映画化。
大学入学を機に上京した少し図々しいけれど人の好い大学生『横道世之介』が、あらゆる人と関わり、通り過ぎていくうちに彼自身も成長して……といった青春ドラマ。
主演は高良健吾。好演が光ります。この役が高良健吾で本当によかった。
物語をネタバレありで、好きだったところ、残念に感じたところを書きます。
横道世之介
作品情報
2012年 160分
監督:沖田修一
原作:吉田修一
キャスト:
高良健吾、吉高由里子、池松壮亮、綾野剛、伊藤歩、柄本祐
予告
物語(ネタバレあり)
1980年代のこと。
長崎から上京した横道世之介(高良健吾)は、初めての一人暮らしを経験したり、大学の学友との出会いを通じて世界を広げてゆく。
世之介が入学式で隣に座った倉持(池松壮亮)とは同じ学部、その後サークルも一緒に。
また、教室で世之介が声をかけた同級生の加藤(綾野剛)とは、自動車教習所の友達割引が縁で親しくなり、教習所で加藤目当ての女子の幼馴染、与謝野祥子(吉高由里子)からは気に入られて誘われるように。世之介自身は謎の年上女性の千春(伊藤夢)に夢中だが全く相手にされていない。
横道世之介が経験することは、サンバサークルに入部したり、運転手付きの車で現れる超絶お嬢様の祥子との出会いなど、普通なようでいて少しだけユニーク。そこに横道世之介のユーモアと人となりが滲み出ています。
天真爛漫で変わり者の祥子からロックオンされて最初は戸惑う世之介。同じ頃、友人の倉持は同じサークルで世之介の友人阿久津(朝倉あき)と付き合ううち、阿久津が妊娠して大学を中退するなど、それぞれの変化もある。
世之介の両親(余貴美子)(きたろう)は、夏休みに帰省した世之介を追いかけてきた祥子との仲を勘繰り、祥子は世之介の地元彼女への隠れた嫉妬心があったりと、心模様も描かれる。
祥子と関わり続けるうちに、世之介も自然と祥子への恋心が育まれ、やがて相思相愛になる二人。
……時は流れ、かつて80年代に世之介と関わった多くの人たちにとって、世之介は過去の人になっている。でも引き出しにしまった世之介との思い出は生きている。たとえ世之介がこの世を去ったとしても。
切ないけれど心地よい時の流れ・好きなところ(ネタバレあり)
物語の多くは、横道世之介が過ごした大学生時代の時間の断片です。
その後の世之介は登場しませんし語られることはない。世之介が大学生だった当時、彼と関わった人たちの回想がほぼ全てです。主人公は世之介は、各人の思い出として登場します。
祥子も加藤も倉持も、世之介とは疎遠になっていた。大学時代の同級生と会っていないのはよくあることで、疎遠になったのに理由なんてない。ただ生活が変わったからというのも納得できます。
世之介自身は友達は好きですが、執着のない淡白な男。
ともすれば否定的に捉えらてしまう他人の特徴や変化を、世之介は実にフラットに受け止める。関わった人に『横道世之介』というさりげない記憶を残して去っていける。そんなキャラクーです。
▼その後も出版されています!
大学を辞めて子供を育てることを決めた倉持と阿久津にも「あまり使わないから」とまとまったお金を貸し、引っ越しを手伝う。人のために動くことが苦ではない人は他人に執着しがちですが、世之介は自分と他人の棲み分けが自然とできている。
善意の人だから何かを期待しての行動は取らない。恩や貸し借りではなく、さりげなく手を貸すことができる、不思議な魅力のある男です。
世之介の近況は、時折流れる事故の報道で「写真家」と紹介され、物語の終盤近くで写真家の室田(井浦新)との出会いが契機となり、写真に魅了されていくのが予想できるのに留められています。
過去と現在の交錯のさせかたが狡いくらいに見事。物語に存在する時間の余白が巧みすぎて、思わず想像力を掻き立てられます。
見どころは後半、お嬢様として世之介に寄り添っていた祥子が別人のように変化しているところと、そんな祥子が過去を振り返り、世之介の母から送られた手紙と写真の束を開いた瞬間です。そこで世之介がカメラを手にした理由が明らかになる。ドラマチックな場面でした。
人が変化していくのは瞬時ではなく年月を経てのこと。祥子も世之介と長崎の海でボートピープルに遭遇したあたりから、社会を考えるようになり、緩やかに人生観が変化していったのだろうなと察することができます。人は前に進むことはできても後ろに戻ることはできない。それがわかっているからこそ、かつての自分とその自分を愛してくれた人を想うとき、郷愁のなかに遣る瀬なさを感じずにはいられないのでしょう。
ストーリーにしては尺長・残念に感じたところ
大学時代を経て、世之介が関わった人たちのその後を挟み込むようにして物語が進むので、時間軸が長いのは理解できますが、ドラマで160分は長いように思えました。でも名作ですけど。
あのスタイリッシュな高良健吾を80年代のダサメンにさせる横道世之介のキャラはすごい……ってまた褒めてしまいました。
▼吉田修一の作品、高良健吾が朗読しています!
さいごに
高良健吾主演、映画『横道世之介』をご紹介ました。これ本当にいい映画なので、未見の方は一度は見るといいんじゃないかなーと思います。
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※本記事の情報は2021年4月時点のものです。
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それではまた。
のじれいか でした。