映画『LOVE MY LIFE ラブマイライフ』は、同性愛カップルのかわいいけれど、それだけじゃないお話。
主人公の大学生を吉井玲が、同じ立場の友人を高橋一生が演じています。
淡々として明るいストーリーの中に、生き方や考え方に触れる場面がある。同性愛者でなくても共感できる部分が多く、愛と自立が描かれる良作でした。
作品の好きなところ、残念に感じたところをネタバレありでご紹介します。
LOVE MY LIFE ラブマイライフ(2006)
※本記事の情報は2021年6月時点のものです。 最新の配信状況はサイトにてご確認ください。
作品情報
96分
監督:川野浩司
キャスト:吉井玲、今宿麻美、石田衣良、高橋一生、平岩紙、寺泉憲、秋元奈緒美、池内博之、浅田美代子
極端な家庭に育った二人・好きなところ
大学生のいちこ(吉井玲)には、エリー(今宿麻美)というラブラブの恋人がいる。
いちこは翻訳家の父(石田衣良)とふたり暮らし。いちこと父は、オープンでありながら適切な距離感があり、いちこからエリーを紹介されても、父はするっと受け入れる。
それもそのはず…。
実は父も同性愛者で、やはり同性愛者の亡き母(小泉今日子)とは友人関係で、結婚していちこを授かったことを打ち明けられる。
突然の父の告白に驚くいちこだが、自分が望まれて誕生したこと、違った夫婦の形も存在することを受け入れる。
でも、いちこと違い、エリーの弁護士の父(寺泉憲)は娘のエリーに厳しい。
司法試験の試験を控えているエリーは、試験に一度で合格を厳守され、女性蔑視な雰囲気も感じられる。なのでエリーは同性愛者であることを親はもちろん、周囲にも話していない。
家庭の価値観はそれぞれ違うのは昔からなのでしょうが、多様化する現代社会の方が、家族の在り方にも一層の違いが表れるのは当然だと言えそうです。
両極端な家庭に育っていることもあり、いちこはエリーの親に対する気持ちに理解が及ばないところがある。エリーから司法試験に集中するため試験が終わるまでは逢えないと言われ、納得できないいちこはエリーと口論になってしまいます。
これもある種の親ガチャかも。子供は育った環境を受け入れるしかないですからね。いちことエリーの考え方や性格にそんなところがよく表れていました。
父と友人のアドバイスがいい・好きなところ
エリーは、弁護士になりたいわけではない。ただ父や兄を見返して、同じ土俵に立つことが目的と、いちこに話していました。
やがてエリーはいちこに、勉強に専念するため、試験が終わるまで逢えないと告げます。
エリーは、父親や兄と同じ立場になりたいとずっと前から考えていた。
同性愛者なことを曝け出すことにエリーは否定的なのですが、それは「自分を曝け出すことより、丈夫な鎧を手に入れることが重要」と考えているから。
エリーの気持ちがすごくよくわかる。同性愛者でなくても、多くの人が身を守りたい安心したいと考えてスキルを取得するものですよね。まして同性愛者で家族とよい関係を築いているとは言い難いエリーの立場であれば、より丈夫な鎧が必要と考えてしまうのは頷けました。
でもいちこに、エリーの気持ちが理解できないのもわかる気がする。
ただし、その人が決めたことを否定する権利は誰にもない。恋人でもパートナーであっても、相手の人生には介入できない。そんな人生についての深い部分にも触れられるところはとてもよかったですね。
思い悩むいちこは、父に相談。すると父は答えます。
「いつまでも遊んでいられないのは、いちこだって同じだろ? エリーの時間に合わせようとするから辛くなる。どんなときでもいちこはいちこの時間を生きないと」
大学生という時間はあっという間に終わる。その後の生き方を決める期限が迫っていることをいちこは父からやんわり告げられます。
大学の友人でゲイのタケちゃん(高橋一生)からも「それは、いちこの我儘」とはっきり言われてしまう。今は目的がなくても、弁護士資格を取った先に、新しい目的を見つかるかもしれない。結局エリーに逢えないことが嫌なだけではと指摘されてしまう。
厳しい、でも当たっている。
タケちゃんはゲイで、同級生の男子から疑いの眼差しを向けられている。そのため、いちこと付き合ってるフリをしているのですが、だからこそ本音を口にできる関係でもあるわけです。
この映画では、いちこの父とタケちゃんの役割がすごく大きい。こんな親子関係、友人関係は純粋に羨ましいなと素直に感じさせられました。
恋と自立・好きなところ(ネタバレあり)
父とタケちゃんからの言葉を受け止めるいちこは、エリーとの関係を見つめ直す。そんないちこに翻訳家の父は、翻訳の仕事をやってみないかとアドバイス。いちこは出版社から翻訳の仕事を貰い、必死に一冊の本を訳します。
父が言っていた「いちこの時間」が始まったわけです。何度も戻されてながら限られた時間で翻訳に没頭するいちこの姿を父は見守ります。
まだ大学生だと、どうしても恋愛がすべてになってしまい、それ以外のことに気持ちが向かないのはとてもよくわかる。
恋愛は大切ですが、若いときにやっておきべきことは恋愛だけではない。自分を見つめることが大切で、それができないと自分の人生を生きることができず、下手をすれば依存体質になってしまう。
いちこは自分に向かっていくことで、エリーと時間と自分の時間の区別ができるように成長する。こういう流れはかなり好みでした。
漂うB級感・残念に感じたところ
いい話なのですが全体的にB級感がありました。
いちこ役の吉井玲もかわいいし、エミー役の相手役の今宿麻美もきれい。二人の絡みも出てきますが、いやらしさがなくて爽やかで雰囲気もよし。
高橋一生も傍で主人公を支えていて、好感が持てました。
石田衣良が悪いわけではいのでしょうが本業は作家。その割には出番が多くて重要な役割を演じていることも原因としてないとは言えない気がします。
あと、冬の海に遊びに来た、いちことエミーが砂浜でじゃれあっていると、いちこの知り合い、浅田美代子、秋本奈緒美が偶然現れる。彼女たちはいちこの両親との古くからからの友人で、同性愛者だったいちこの母の気持ちを代弁してれる…のですが、冬の砂浜で7年ぶりの知人と再会は不自然さが残りました。
あと小泉今日子は写真だけ。回想などで登場はしません。
意外なラスト(ネタバレあり)
父から紹介された翻訳の仕事を無事にやり遂げたところで、いちこの携帯が鳴る。
相手はエリーでした。続いてメールで「会いたい」と。
喜び勇んで駆け出すいちこ。
無事に司法試験が終わったのかと思ったらそうではなく、エリーは何やら原稿を手にしている。自分の思いを小説に書き留めていたこと、自分は小説家になることをいちこに告げます。
エリーが書いた小説のタイトルは『LOVE MY LIFE 』。ちょっと意外なラストですが、本人がそう決めたのならそれでいい。
エリーは鎧を付けず、いちこと愛し合える自信を、小説を書くことで手に入れたのでした。
めでたしめでたし。
同性愛をテーマにした映画はこちらにもあります!
それではまた。
のじれいか でした。