こんにちは。 のじれいか(@noji_rei)です。
『苦役列車』は、私小説家・西村賢太の芥川賞受賞作品の映画化。1980年代(昭和後期)の東京を舞台に、西村賢太自身をモデルにした、かなりひねた男の惨めさあふれる青春劇です。
今回は『苦役列車』のストーリーについて、また感じたことについて書きます。よろしければお付き合いください!
【映画】『苦役列車』
作品情報
2014年 108分
監督:山下敦弘
原作:西村賢太
クズっぷりは原作の方が上かな
森山未來だとそこまで最低に見えないかも
キャスト
北町貫多(森山未來)
日下部正二(高良健吾)
桜井康子(前田敦子)
高橋岩男(マキタスポーツ)
古本屋の店長(田口トモロヲ)
予告
ストーリー
昭和後期の東京下町のボロアパートに暮らす、北町貫多(森山未來)19歳は、湾岸の倉庫で日雇い労働者として働いている。
貫多の家庭は、貫多が幼い頃に父親が性犯罪を起こして一家離散に追い込まれている。そのこともあって貫多は中卒、酒と風俗に溺れ、性格もひねくれ、家賃の支払いも滞っていたが、唯一の趣味は本を読むことだった。
ある日、貫多は職場で同じ歳で専門学校生の日下部(高良健吾)と知り合う。貫多と日下部は日毎親しくなっていき、酒や風俗にも一緒に行くように。友達といえる間柄になっていく。
やがて貫多は、以前から好意を寄せていた古本屋のアルバイト・康子(前田敦子)と日下部を交えることで友達になることに成功する。
もしかして康子と付き合えるかもと舞い上がる貫多だが、康子には遠距離恋愛の彼氏がいるとわかり寛多は絶望する。
一方、家賃の支払いが滞り部屋を追い出された貫多は、日下部から無理矢理金を借りるが、やがて日下部に彼女ができたこともあり、日下部と貫多の関係は以前ほど密接ではなくなっていく。
それでも日下部は彼女を交えて貫多と飲みに行くが、貫多が彼女にセクハラ、モラハラ発言をしてしまい、貫多と日下部の友人関係は終焉を迎えた。
幹太イコール西村賢太は確かにそこにいた
この映画は、昭和の後半、東京に実在した若い男の最低ぶりが淡々と描かれており、そのイタイほどの生々しさが肝になっているお話です。
家賃を貯めに貯め込んだ責任は自分にあるのに、せっかく友達になった日下部の部屋に強引に居候を申し出、それがダメとわかれば今度は借金を迫る。
やがて貫多は、日下部に自分の父親が性犯罪者であることを打ち明けるまでになりながら、日下部に恋人ができたことを嫉妬して酔って彼女に暴言を吐いてしまう。そんなふうに、北町貫多は自分のことしか考えられず、また経験値が低いためか一度親しくなった相手に対して節度のない接し方をする、大変イタイ男です。
しかも貫多は行きつけの古本屋で働く康子に目をつけ、日下部に何回も間に入ってもらう依存心や甘えの強いところもある。その癖いつも相手を疑い、試しているようにも取れて、見ているとハラハラもさせられます。
人の出会いと別れは繰り返されるもので、10代で知り合った関係がその後も続くことは多くはないですし、変化もときに必要です。貫多の荒々しさも若さゆえで、彼にとっては後悔を重ねることも必要だったのかもしれない。そんなふうに思うと少し救われます。
幹太イコール西村賢太は確かにそこにいた
苦役列車の主人公である北町貫多は、作家である西村賢太、本人の物語で、私小説(正しくは「わたくししょうせつ」と読む)です。
芥川賞が発表され、記者会見の面白さに惹かれ原作を読みましたが、その最低さと自虐ぶりに驚きながらも、決して逃げることなく自分の醜さと向かい合える姿勢が胸に突き刺さり、西村賢太という人は実はすごく素直なの人なのでは、という感想を持ったことを覚えています。本当に素直さは大切なんだなとしみじみでした。
ただ、その後公開された本作は実は今まで観ていなかったんですね。
理由としては西村賢太本人がこの映画に激怒したという記事を何かで読んだからで、だったら辞めておくかといった軽い気持ちでした。
今回ずっと放置していた『苦役列車』を敢えて観ようと思ったのは、西村賢太の訃報に触れたからで、ここでスルーしたらずっと観ない可能性があるかもと感じたから。
その率直な感想としてはいくら作家本人が否定しようとも(今となってはその記事の真偽も曖昧)北町貫多こと西村賢太は確かに存在していたのだと映像で確信でき、離れていく過去に杭を挿したような、切ないけれど不思議な安堵感も得られました。物語は消えることなくあり続けることを実感できたのかもしれません。
高良健吾、前田敦子の好演
この映画は森山未來が主人公の貫多を、友人の日下部を高良健吾が、片想いの相手の康子を前田敦子が演じています。
個人的には、日下部と康子という重要な二人の存在感がすごくよかったですね。
とくに高良健吾演じる日下部は、貫多と世界をつなぐ役割を果たしているのですが、同じ倉庫で働いていても、専門学校生の日下部はいずれバイトを辞めて就職することが決まっているし田舎に親だっています。すれ違い離れていくことは見えている、そんな切ない繋がりであることが高良健吾の穏やかな態度から伝わってきました。
あとファッションも昔のダサさを上手に出していてリアルによかった。貫多がジーンズにベルトを締めてチェックのシャツをインして、ビニールカバーのついた大きな紙袋を持っているところなど、昭和ファッションが至るところに見られ、細かい演出が泣かせます。
▼高良健吾の映画はこちらにもあります!
▼前田敦子の映画はこちらにもあります!
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※本記事の情報は2022年2月時点のものです。
それではまた。のじれいか でした。