【映画】『his』宮沢氷魚の溶けてしまいそうな透明感・愛は人を素直にする【ネタバレ・感想】
こんにちは。 のじれいか(@noji_rei)です。
映画『his』は、ゲイカップルの別れと再会を描くヒューマンドラマです。
都会を離れて暮らす男の元に、突然、元恋人が子連れで現れるところから物語は始まります。
メ〜テレで制作されたドラマ「his〜恋するつもりなんてなかった〜」の、その後の映画版。
宮沢氷魚の繊細な演技が光る、また同性愛者ではなくても人を好きになることについて考えさせられる、とてもよい映画でした。
主人公のゲイの男性の複雑な心境が物語の核にはなりますが、そこを深く探るというより、女の立場でも普通に共感できるお話かなという感想です。
ここでは『his』のストーリーと感想について、ネタバレありで書きます。
よろしければ、お付き合いください!
作品情報
2020年 127分
監督:今泉力哉
脚本:アサダアツシ
キャスト
井川迅(宮沢氷魚)
日比野渚(藤原季節)
吉村美里(松本穂香)
日比野玲奈(松本若菜)
日比野空(外村紗玖良)
野田文子(中村久美)
緒方(鈴木慶一)
吉村房子(根岸季衣)
水野弁護士(堀部圭亮)
櫻井弁護士(戸田恵子)
予告
ストーリー
大学時代に同棲していた、井川迅(宮沢氷魚)と日比野渚(藤原季節)のゲイカップルは、ある日、渚が別れを告げたことで関係を終えます。
それから8年、迅は、街から離れた山間部で、自給自足生活を送りながら暮らしていました。
迅の暮らす村には、緒方(鈴木慶一)や吉村房子(根岸季衣)たちや、地域の仕事に就く吉村美里(松本穂香)などの住民らが集います。
そんなある日、迅の家に突然、渚と6歳の娘・空(外村紗玖良)が現れます。でも迅はどうして今更と驚きと戸惑いしかありません。
そんな戸惑いしかない迅を前に、渚はプロサーファーになる夢に破れ、そのとき知り合った玲奈(松本若菜)と結婚して空が生まれたこと。そしてフリーランス通訳者として働く玲奈を支え、自分が専業主夫として空を育ててきたこと。でも現在は離婚を前提に話し合いが進んでいることを打ち明けます。
でも、迅は、渚と別れてあまりに時間が経っていることや、迅自身も社会で同性愛者の生きづらさを感じて今の暮らしを選んでいることもあり、無職で行く宛のない渚と空の親子を受け入れるつもりにはなれずにいます。
そんな迅でしたが、やがて身勝手なように見える渚が、本心ではやはりどうしようもなく自分を愛していること、迅も空を可愛く思えるようになっていくことで、無理に封印した愛情が再燃します。
ただ、これまで迅がゲイであることを、地域の住民たちには受け入れられないであろうと察する迅は、この村で仕事を決めた渚に代わり、自分がここを去ろうと考えるようになるのですが……。
ゲイカップルの生きづらさ
宮沢氷魚が演じる井川迅という男性は、ゲイという自分の立場を隠して生きています。その背景には、大学を卒業して就職した企業での嫌な思い出があるから。性癖や個性を職場であれこれ噂されて、耐え難いものがあったことが窺えます。
藤原季節・演じる渚は、迅に比べれば自由で気ままな人ですが、それでも迅との別れを決めたのは、就職が決まった迅が周囲からゲイであることがバレて内定取り消しになったらと、愛する人のことを案じた背景に触れられます。
その後、バリキャリ女子の玲奈と結婚し、空をもうけた渚は、無職の専業主夫として家事育児を担ってきましたが、そうなってみて、やはり自分が愛しているのは迅だったと気づくのでした。
そんな渚は、周囲を巻き込む厄介な男ではあるものの、それだけ魅力的なキャラクターなので、迅が今住んでいる家を渚たちに譲り、自分はここを立ち去ろうと考える気持ちもわかるような気がしてきます。
妻の立場の苦しさ
渚の妻・玲奈は通訳の仕事持つ女性、娘の空は夫の渚に預けていました。
きっとそれで家族のバランスは保たれていたのでしょうが、渚から離婚の意思を伝えられ、夫がゲイとわかり玲奈は心を閉ざします。
それで、玲奈と渚は、互いに感情のぶつけ合いになり、話し合いではどうにも解決せず、離婚の親権については調停に持ち込まれます。
玲奈はもちろん空を愛していますが、渚から裏切られた気持ちが強く、冷静に話し合うことができず、ついつい空にもきつく当たってしまう。
そんな玲奈自身は、母・文子(中村久美)から厳しく育てられており、窮屈に育ってきた女性です。なので母は、渚との離婚についても「そらみたことか」と心配というよりは、娘を見下しているところがあるように感じられます。
だから女性の立場からすると、玲奈が本当に気の毒に思えるのですが、特に玲奈がまだ渚を愛していることがわかるから余計に悲しい。もしどうでもよければもっとスッキリと別れられたはずなのでそこが切ないですね。
女子から告白される迅
迅は役場で高齢者や移住者の世話をする吉村美里(松本穂香)から好意をもたれます。
それはそうでしょう、あんな男性がいたら誰でも気になるはず。ただ住民たちは迅が訳ありだと勘づいているし、まして渚が子連れで現れてからは、余計に何かあったと思っている。
そんななか、美里はある日、思い切って迅に告白し、玉砕します。
「好きな人がいるんですか?」と美里に訊かれたとき、迅はうまく説明できません。
なぜなら迅は自分を隠しているためなのですが、日頃親しくしている猟師の緒方から「誰が誰を好きになろうとその人の勝手だ、好きに生きればいい」と言われ、いかに自分の気持ちを押し殺してきたか、また、それによって周囲を拒んできたかを悟ることになります。
住民たちの存在感が光る(鈴木慶一・根岸季衣)
迅が暮らす、緒方をはじめとする、村の住民たちがいい味を出しています。
鈴木慶一演じる緒方の台詞が沁みますが、緒方が急逝した葬儀の場で、迅は自分がゲイであることや素直な気持ちを大勢の前で打ち明けます。
それは迅と渚がキスをしているところを見た空が、住民たちに普通に喋ったことで、周囲が感じたであろう違和感を、迅はそのままにしたくなかったから。もし自分が村を去ることになっても、自分の気持ちだけは打ち明けたかったのでしょう。
立ち上がってみんなの前で、自分が渚を愛してることを話す迅に、根岸季衣演じる吉村房子は「この年になると、男とか女とか、そういうのはどうでもよくなる」と言い、続けて「長生きしろよ」とひとまわり大きな愛を伝えます。涙がでました。
愛は人を素直にする
やがて渚と玲奈の離婚調停が始まります。空の親権をめぐっての裁判は、子供を育てる環境としてゲイカップルはふさわしくない、普通ではないと二人の関係は非難を浴びることになります。
そして渚の櫻井弁護士(戸田恵子)は、玲奈がキャリア優先の子育てをしていることや、以前、酒に酔って空が黙って家を出て迷子になったことを非難することで、親権を渚に取らせようとしました。
でも弁護士に追い詰められていく玲奈を見ていて辛くなった渚は、裁判の中止をして和解の解決を求めます。
なぜなら愛する娘を産んでくれたのは玲奈で、玲奈が働いてくれたから自分は空との時間を持つことができた、という感謝の気持ちがあったから。だから玲奈が責められることは渚の本意ではありませんでした。
ただその感情は、渚が迅と再会できたからこそ、持てた感情なことは間違いない。
愛は人を素直にし、愛を分かち合いたいと願うものなのでしょう。
宮沢氷魚の透明感・藤原季節の上手さ
宮沢氷魚は、宮沢和史と光岡ディオン夫妻の間に1994年に誕生し、独自の雰囲気と透明感を持つ俳優です。
二人のいいところばかりを取った印象。
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渚役の藤原季節も最近人気の俳優ですが、本当に演技がうまい。繊細で周囲を見ながら暮らしてそれい疲れて逃げ出した井川迅が思わず好きになってしまう相手役にはぴったりだと思いました。
▼こちらは百合
それではまた。のじれいかでした。