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【映画】『春の雪』竹内結子の幻のような時間【ネタバレ・感想】

映画『春の雪』は、三島由紀夫の最後の長編小説で、全四巻からなる「豊饒の海」の第一巻、「春の雪」の映画化です。


大正初期、華族の令嬢と侯爵の令息の恋の物語。
本来であれば普通に結ばれていたはずのふたりが、心がひねくれていたばかりに悲劇を招いてしまうお話しです。

『春の雪』よかったところ、残念に感じたところ、そして本作でヒロインを演じた竹内結子について書いていきます。
 

 

 

 

春の雪

 

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作品情報

 

製作年度

2005年

上映時間

150分

監督

行定勲

キャスト

松枝清顕(妻夫木聡

 

綾倉聡子(竹内結子

 

本多繁邦(高岡蒼佑

 

松枝侯爵(榎木孝明

侯爵夫人(真野響子

朝倉伯爵(石丸謙二郎

伯爵夫人(宮崎美子

蓼科(大楠道代

清顕の祖母(岸田今日子

松枝の執事(田口トモロウ)

月修寺門跡(若尾文子

殿下(及川光博

 

 

予告

 

www.youtube.com



映像が現実離れした美しさ 

 

松枝侯爵の子息、清顕きよあき妻夫木聡と、華族の綾倉家の令嬢の聡子(竹内結子とは幼なじみの間柄。朝倉家は凋落しているが、家柄としては新華族の松枝家よりも上のため、宮家の振る舞いを身につけさせるため、清顕は子供の頃は朝倉家に預けられていました。


清顕は何不自由ない暮らしを与えられていますが、それゆえに物足りなさを感じている。麗しい男女に成長した清顕と聡子は、お互いを意識して好意も抱いている。
けれども何かを心から欲した経験を持たず、また望まなくとも手に入る暮らしをしている清顕は、自分の恋心を否定しようとする心がある。すなわち、ひねくれ者ということなのです。

 

 

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あるとき清顕は聡子から「わたくしがいなくなったらどうなさる?」と訊かれて戸惑う。聡子の言葉が気にかかって、聡子が亡くなる夢まで見てしまうのです。ところがそれが清顕の父である松枝侯爵(榎木孝明が進めている聡子の縁談を指していることに気づいた清顕は途端に安堵し、逆に聡子を心憎く感じてしまう。

そして清顕は父のすすめで遊郭に通っていること、女中と関係していることを暗示させる手紙を聡子に送り、聡子を傷つけてやろうと画策します。しかし気が変わった清顕は聡子に送った手紙を聡子に読ませずに焼き捨てるように、女中の蓼科(大楠道代に伝えます。しかし手紙は既に聡子が読んでおり、内容が嘘であったことなど清顕の幼稚さが露呈される結果になり、自尊心を傷つけられた清顕はへそを曲げてしまいます。

清顕の自宅は見栄っ張りで派手好きな父の趣味が反映されていて華やか。またパーティ三昧なので大正時代のセレブリティの世界も垣間見れます。地味に愛し合っているふたりを嘲笑っているような刹那的な雰囲気も出ていました。

清顕の自宅の庭(庭園)は、香川県
栗林公園で撮影されいていますが、この世の中のすべてがうたかたのという物語にふさわしい非現実感がみごとに再現されている。行定勲監督の映像美の世界が思う存分堪能できます。

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禁じられた恋だから燃える


清顕の2歳年上で聡明な聡子は、正直な恋心を手紙に書き連ねます。
でも清顕は、そんな聡子から送られてくる手紙をすべて燃やしてしまう。

それなのに聡子と殿下との結婚の勅令が下りてしまうと、清顕はやっぱり聡子が惜しくなり、無理やり呼び出して、その後は隠れて会うようになります。
まるで禁断の関係を望んでいたかのように


やがて聡子は妊娠。聡子は女中の蓼科の操作から逃れ、子供を諦める代わりに最後にひとめだけ清顕に会わせてほしいと松枝侯爵に願い出る。

 

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宮家のお殿様と婚約しているのに、ほかの男性と会い続け妊娠までしてしまった。当時としては大変なことをやらかしてしまったわけです。隠れて会っていた清顕とはもうどうあっても結ばれることはなく、聡子が心から望む結末を導き出すことはできない。それでも淡々と現実を受け入れて、なおかつ清顕の身を案じる聡子はあまりにも切ない。

 

大阪行きの汽車に乗って出発を待つ聡子は、窓際で清顕と言葉を交わします。
清顕は聡子の見に起こったことを何も知らず、聡子はただ別れだけを告げる。
すべて清顕の幼稚さや身勝手さが引き起こしたことなのに、決して清顕を責めることはありません。


聡子は奈良の月修寺で出家を決めます。ただ自分の運命を受け入れて、その中で自分がすべきことを選択することができる聡子という女性は、今の時代からみれば受け身なようにも見えるけれど、本当はとても聡明な人だと思う。
竹内結子が演じる聡子が清顕との恋に悩み、翻弄されながら、もっとも愛する人から遠く離れたところへ行くことを選ぶ。その切なさがこの映画の見所です。

 

残念なところ・清顕の幼稚さと愚かさ

 

清顕はわがままで身勝手な男、というかまだ子供。だから幼少期を共に過ごした聡子という存在を愛しく感じながら、同時に重く厄介な存在としても捉え、素直に接することができない。しかも相手を試そうと姑息なことを繰り返してしまうから、取り返しのつかないことになってしまう。

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悲恋の話ですが、すべてが清顕から起きていることだけに、共感できると言い切れないところがある。
けれど、自分の情緒だけを大切にして人を試し続けていると、ロクな結果にならないという戒めになりそうな話ではあります。


小説の原作も「春の雪」の主人公は松枝清顕ですが、映画は綾倉聡子を主人公として観た方が納得できる気はします。


ネタバレ・友人多田の存在と

 

清顕の友人の多田は、気まぐれな清顕の面倒をよくみる実直な友人として登場しています。清顕は二度と手に入らない存在になった聡子を追って寺まで行きますが、出家している聡子と会うことは叶わない。高熱にうなされている清顕の代わりに多田は寺に向かいますが、やはり聡子に会うことはできませんでした。
そして清顕は胸を患って亡くなります。



原作の「豊饒の海」では、第二話の「奔馬」、第三話「暁の寺」第四話「天人五衰」で完結しますが、「春の雪」のその後の世界でも、多田は登場し、年齢を重ねてゆきます
多田は、清顕と聡子のことをずっと気にかけていましたが、聡子にはなかなか会うことができない。老人になった多田が聡子とようやく再会します。

 

さいごに「春の雪」と竹内結子

 

この映画が上映されたのは、2005年のこと。
もう少し最近の映画ではと勝手に思い込んでいましたが、随分前のことなんだなとしんみりしました。

当時、竹内結子は妊娠中の撮影で、妻夫木聡も気遣いをしながら撮影に臨んだというエピソードを語った映像を見た記憶が残っています。
結婚が発表され、人気も絶頂と登り坂の女優が、好きな男と結ばれず、最悪の事態に至る悲恋のヒロインを演じたわけですが、私生活をまったく感じさせない凄みのある演技を見せています。それとも私生活でもこの時既に心を悩ませることが起きていたのでしょうか、そんな遠い過去についての邪推をついしてしまう。今回再見してやはり本作品の竹内結子の美しさと切なさは記憶に残るものがありました。

とくに妊娠がわかり、松枝家と綾倉家の話し合いに現れた聡子が、最後にもう一度だけ清顕に会わせてほしいと頼み続ける場面は今生の別れを決意する聡子の強い意思が感じられます。
そして今生の別れをする場面は、今観ても涙が出てしまう。男の清顕は何もわからず、聡子が何のために大阪に向かっているかも知らないというのに。
女の聡子は、試練が続き、奈良の月修寺を訪れて月修寺の門跡(若尾文子)から話し掛けられたときの何かを覚悟している震えるような表情、そして夜、髪を切り落とす場面では静かな狂気が感じられました。


この作品は、妻夫木聡演じる松枝清顕がいちおうの主人公ではありますが、清顕目線で観ていると腹が立ってしまうので、聡子がヒロインだと思って観ることをおすすめします。

「おひいさま」の聡子は衣装も素晴らしくて振袖姿も艶やか。観劇の場面でのドレス姿も素晴らしい。(ので絶対におすすめです!)
けれど美しさの中に、実家が没落しているゆうつうさ、身勝手な想い人に翻弄される切なさ、それを受け入れて生きる逞しさが混在している。竹内結子が演じるヒロイン役のなかでは、かなり好きな役柄でもあります。

この後、竹内結子は私生活では出産と離婚を経験。『春の雪』が娘役ヒロインを演じた最後の作品になりました。この後は年齢不詳なキャリア役のヒロインを演じる機会が多くなっていきました。
亡くなられて残念というか、まだまったく実感がないのですが、ただ最も美しいときにこの姿を映像に残すことができたことは、役者本人にとっても、観る側にとってもとても幸福なことだと感じる気持ちは今も変わっていません。

 

 

 

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それではまた。
のじれいか でした。