映画『ファーストラヴ』は、島本理央の小説の映画化。
父親殺しの容疑者の女子大生の裁判を担当する公認心理士と弁護士が、事件を通じて、隠し持つ自分自身を見つめることになる話。
容疑者の女子大生を芳根京子が、心理士役を北川景子が演じている。また中村倫也、窪塚洋介も出演する見応えのある作品でした。
毒親育ちだったり、両親との関係に疑問を感じている人には、共感できるところがあるかも。
ストーリー紹介に、本作品の好きなところ、残念に感じたところを書きます!
ファーストラヴ(2021)
作品情報
119分
監督:堤幸彦
キャスト:北川景子、芳根京子、中村倫也、窪塚洋介、木村佳乃
予告
容疑者に自分を重ねる危うい心理士(好きなところ)
画家の聖山那雄人(板尾創路)が雑害され、容疑者に聖山の娘で女子大生の聖山環菜(芳根京子)が逮捕される。
マスコミにも出演する公認心理士の真壁由紀(北川景子)は、本の出版の取材のため拘置所にいる環菜に接見するが、とらえどころがなく、時に感情的になる環菜に翻弄させられる。
由紀は、環菜の別れた恋人や実母(木村文乃)など関わりのあった人物から話を聞くうち、環菜が幼少期に父のアトリエで若い学生たち相手にデッサンモデルをさせられていたこと、それが嫌で近所のコンビニ店員の若い男のアパートに身を寄せていたなど、闇のある過去を知っていく。
環菜の国選弁護人は、由紀の夫、真壁我聞(窪塚洋介)の弟である庵野迦葉(中村倫也)だが、我聞と迦葉は本当は従兄弟同士。幼い頃に両親を亡くした迦葉は我聞の両親に引き取られて育っていた。
取材を重ねる由紀は、やがて自分が幼少の頃、父が外国で少女を買っていたという自分自身が経験した過去と、環菜の過去を重ねるようになっていく。
芳根京子が演じる聖山環菜の父親殺害事件が核なようでいて、事件を追う北川景子演じる真壁由紀の過去が炙り出されるストーリー展開が面白く見応えがありました。最初、環菜は不安定で虚言癖のある人間に見えますが、由紀が自分の過去と重ね合わせるうちに、環菜は本当の思いを吐露するようになります。
事件解決ミステリーとは一味違った楽しみ方ができるところがいいですね。
毒親育ちの女たち(好きなところ)
環菜は子供の頃、父が自宅で主催するデッサン教室で全裸の男たちと一緒に並べられてデッサンモデルをさせられるのが苦痛でたまらなかった。
男子学生たちから強い視線で見つめられることが強いストレスでしたが、父はもちろん、母親も見てみないふりをし、環菜に寄り添うことは決してなかった。
また自傷癖のある環菜の傷を目にした母親は「気持ち悪い」と言い放ち、母親からの非難を恐れた環菜は咄嗟に「怪我をした」と嘘を吐くように。そんな環菜に対して母親は「あの子は嘘つきだ」と自分にとって都合のよい娘のイメージを作り上げるようになりました。
環菜の両親もキモいのですが、公認心理士として他人のアドバイスをする由紀の過去も結構キテます。なので環菜の過去を調べるうち、由紀は自然と自分の過去を呼び戻してしまうことになる。
由紀は子供の頃、父親の車のダッシュボードから出てきた子供の写真の束を見たり、父の自分を見つめる視線を恐れていた。実は父親は小児性愛者だからなのですが、それを暴露するのはなぜか由紀の母親です。
由紀が成人式に向かう車内、由紀の母(高岡早紀)が何を考えているのかイキナリ「知っておいた方がいいと思って…」と晴れ着姿の由紀に、父親の性癖を語り始めるところは衝撃的でした。
現実にも夫婦の問題を娘に共有化させたがる母親は少なくない。娘には関係のない話なのに、母にとって娘は自分の一部だと認識しているのか、または娘が自分より幸せになるのが悔しいという心理が働くのか。いずれにしろ女の性が露呈した行為で悍ましい感情です。
娘に対して残酷になれる母親は存在するので、いろいろと考えさせられる場面でした。
芳根京子と中村倫也がいい!(好きなところ)
主人公は心理士の真壁由紀なのですが、父親殺しの容疑者・聖山環菜を演じる芳根京子と伯母家族に育てられた庵野迦葉を演じる中村倫也の存在感がすごかったですね。
中村倫也が演じる迦葉は一見チャラそうですが将来を嘱望された有能な弁護士。ただ両親はおらず、母親に捨てられて叔母家族に引き取られたという幼少期の経験が影を射していて、窪塚洋介演じる兄の我聞に対してもコンプレックスを抱えている。
由紀の夫になったのは我聞ですが、最初に由紀と知り合ったのは迦葉でした。由紀と迦葉は恋人になりますが、当時まだ大学生で若かった二人は、自分の抱える状況に一杯一杯で、相手への思いやりに欠けていた。
特に余裕のなかった迦葉は、由紀を愛しながら、包容力に欠けていた部分もあった。その余裕のなさや切羽詰まった心情を中村倫也は切々と演じている。とてもよかった。
芳根京子も面会のたびに異なる表情を見せる難しい役柄を、大変上手に演じていました。
アナウンサーはやめとけ(残念に感じたところ)
大学生の環菜はアナウンサーを目指し試験を受けていた。画家である父はアナウンサーになることを反対していて、そのことが犯行に及んだ原因と報道されていました。
裁判になって環菜は、アナウンサーの試験会場で自分を見つめる男性の視線が、デッサン教室で自分を見つめる男子学生の視線とだぶり試験に失敗したと話しています。
環菜が過去に経験したことは、成長期で思春期の子供にはつらいことだったと思う。そんな経験をしながらアナウンサーになろうとしたこと、また克服できていないのに人目に晒される仕事を選ぼうとした環菜の心理は理解に苦しみます。
父はただ画家の立場的に娘がアナウンサーという職業に就くことを快く思わなかっただけですが、それを置いても、人前に出る仕事を選ぶ環菜の気持ちがちょっとよくわかりませんでした。
北川景子と脚本が…(残念に感じたところ)
北川景子は超絶美人の女優ですが、今回は役柄が合わなかったように思えました。北川景子はメリハリのある役の方が映えます。
▼これはよかった!ハマり役です!
脚本は台詞が説明的なところが多いところが気になりました。浅野妙子の脚としては意外な気がしました。(大好きな脚本家です)
▼思わず唸る浅野妙子脚本作品!
それではまた。
のじれいか でした。