映画『フローズン・タイム』。
恋人との別れがきっかけで、不眠症になった美大生の不思議な時間が描かれる。
ジャンルはラブロマンスですが、視点がユニークで既視感のない映画です。
何度か見ている好きな映画。
失恋映画が見たいとき、おすすめしたい映画ですかね。
フローズン・タイム
作品情報
製作年度 |
2006年 |
上映時間 |
102分 |
監督 |
ショーン・エリス |
キャスト |
・ベン (ショーン・ビガースタッフ)
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予告
好きなところ・失恋男子の危うい視点
美大生のベンは2年半付き合った恋人と別れたばかり。
繰り返し思い出される彼女の姿に、とうとう不眠症になってしまう。
眠れない時間をもてあますベンは、寝ているはずの時間を深夜のスーパーマーケットのアルバイトで切り売りしようと考えます。
深夜のスーパーには、やることはあるといえばあるけれど、昼間とは違って時間の流れは緩やか過ぎて、店員にとっては退屈な時間だったりします。
店員たちはそれぞれのやり方で時間を過ごしている。ベンは別れた彼女のことを考えながら過去と現在をさまよううち、時間を停止できるようになります。
静まりかえった空間で、動いているのはベン一人。
そこでベンは女性の服を脱がせてデッサンを始めます。ベンのデッサンは魅力的で、女性の肉体の美しさを称えているのがわかる。
タイムリープやパラレルワールドなどSF的な要素は感じさせない、不思議な空気感が漂います。
憂うつな美大生ベンを演じるショーン・ビガースタッフ(『ハリーポッター』のオリバーウッド役)の童顔と草っぽい雰囲気が、下品にならないのがいい。これがもしイケメン役者だとしても男臭さムンムンだったら、気持ち悪いだけかもしれない。(いやたぶん、かなり気持ち悪いでしょうね)
イマイチなところ・もう少しマイルドでもいいんじゃ
スーパーの支配人や同僚、ベンの親友は、悪気のない単純な連中ですが、変わり者だし品もない。
失恋で弱っている童顔男ベンとのコントラストは悪くないし、深夜のスーパーにいるおかしなキャラで、変人だから退屈な仕事も長く務められるといった背景を描いているとしたら、まあ頷ける気もしますけど。
ネタバレ・失恋から立ち直るには新しい恋
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ベンはバイト仲間の、シャロンという女性が気になり始めて、スーパーで時間を止めては、シャロンのデッサンを描くようになります。
シャロンを描くうち、別れた彼女のことを忘れていることを自覚するベンは、不眠症になって4週間目、シャロンのキスであっけなく不眠症から解放されます。
4週間で失恋から立ち直れるのは、なかなか効率がよい。
だらだら何ヶ月も忘れられずにいるより、正面から向き合う荒療治の方が傷が癒えるのは絶対に早いはず。
人生には終わりがあると、時間を止めながら漠然とベンが感じているように、終わってしまった恋に留まり続けても、そこにはもう別れた彼女は存在しないし、自分だって実はそこにはもういられない。
そのことをベンは時間を止めながら実感してるのかもしれません。
実際、ベンはちょっとした誤解で、シャロンを怒らせてしまいますが、そのときに時間は止められても戻すことはできないことを痛感します。
やってしまったことは戻せないし、止まったままでいることはできないので、いずれは時間も動かさざるを得ません。
つまり時間を支配できているわけではないということです。
時間が止まっているとき、ベンは自分以外の存在に気づきます。
その人が何者かはわかりませんが、失恋した誰かなのか、もしかしたら、もう1人の自分?
▼夢と現実が交錯する失恋映画はこちらにも。
noji-rei.hatenablog.com
さいごに
美大生の視線で捉えた、美しい映像が魅力的な『フローズン・タイム』。
失恋から立ち直る男の話はほかにもあるし、設定は目新しくはないのですが、恋人との別れを経験し、眠れない夜を過ごしているベンの独自な視線が斬新でした。
本人は悲しく沈んでいるものの、世界は能天気で退屈そうに動いている。
いつも一緒にいた相手が自分の元を去ってしまったとき、妄想や過去や現実がごちゃませになる感じは理解できるし、何かの瞬間にふっと時間を止めてしまえればと考えることも少なくはない。
一人一人の内面で感じているであろうことを、上手に表現した映画です。
この映画の原題は『CASHBACK』。
キャッシュバックとは、たとえばキャンペーンのように、何かのサービス(付帯価値)をイメージしました。でも映画の中で、退屈な時間を時計を見ないことでやり過ごす、レジ係のシャロンは、うっかり時計を見てしまい顔を両手で覆い、更に菓子箱で時計を隠して「CASHBACK?」「支払いは?」(と訳している)と言います。
不眠症のベンが睡眠時間の8時間をスーパーに売ったように、時間を売るという意味がありそうです。
それではまた。
のじれいか でした。